認知行動療法の進め方

「ひとり」で受ける?「みんな」と受ける?

意外と身近な認知行動療法~人と環境の不適応を解消する手法

他人の視線や行動から「嫌われているのかも」と不安な気持ちになったり、仕事のミスをきっかけに「自分はダメな人間だ」と落ち込んだり。タスクがたまっているのにやる気が起きなかったり、身近な人に嫌な態度をとってしまって後悔したり。

多かれ少なかれ、誰にでもこのような経験があると思います。

人は、ストレスを感じる生き物ですが、ストレスを感じる背景には自分の置かれている環境の影響を受けていると考えられます。

このような環境の影響を整理し、ストレスとうまく向き合う手法の1つが「認知行動療法」です。名前だけを聞くと何やら小難しい治療のように感じられるかもしれません。しかし実際には医療の現場をはじめ、職場や学校、福祉など生活のさまざまな場面で活用されています。

夫婦カウンセリングや、個人向けのカウンセリング、職場で行われる産業カウンセリングなどでも、認知行動療法の手法が使われています。さらに最近では、個人で気軽に取り組めるアプリのようなツールも登場しています。
 
この記事では、認知行動療法とはどんなものなのかをわかりやすく紹介します。「体の健康を保つためにストレッチや筋トレをする」のと同じように、「ストレスとうまく向き合い、自分らしく過ごすために認知行動療法を取り入れる」ことのメリットを、ぜひ感じてみてください。

認知行動療法ってどういうものですか?

認知行動療法では「何を」治療する?

あなたが感じている悩みや困りごとに対して、自分の認知や行動、そして自分が置かれた環境や見聞きしたものとの間に生じている「ズレ」を見つけて埋めていく。それが「認知行動療法」という心理療法です。

実際には、治療者(セラピスト)と自分が一緒に「認知」や「行動」、「環境」(※1)を振り返り、「ズレ」を埋める方法を探していきます。

ここでの「認知」とは、何かを見聞きしたり経験したりした際に、自然に、かつとっさに生まれる考えやイメージのことです。この「認知」は無意識(自動的)に浮かぶもので、それ自体を意図的に変えることは難しいでしょう。しかし、自分が持つ「認知」のクセや、その内容が極端なものになっていないかをチェックすることで、適応的な認知を導き出すことにつながります。

同時に、自分が普段取っている「行動」にも独自のクセや特徴がないかどうかを振り返り、習慣になっている「行動」を見直すことで、悩みの解消を試みます。例えば「過去の経験から苦手な行為や場所を避けてしまい、自分が望むように生活できない」のであれば、あえて少しずつそれにチャレンジして「できた!」という経験を積み重ね、克服をめざすこともできます。

認知が行動を妨げている場合もあれば、特定の行動がネガティブな認知を引き起こしている場合もあるなど、「認知」と「行動」はお互いに関係しあっています。したがって、「認知行動療法」では両方にアプローチしながら、効果を高めていきます。

実際にはどうやって取り組むの?

よくある認知行動療法の進め方としては、治療者(セラピスト)と相談者による面接(セッションともいいます)によるものがあります。1回の面接は、「導入」「相談」「まとめ」の大きく3つのパートから成り立ちます。ここで、それぞれのパートについて紹介をしていきます。

導入:開始直後の5~10分程度で前回の内容を振り返り、また前回から当日までの間に相談者に起きた大きな出来事や、前回の面接で決めたホームワーク(宿題)について話し合います。そして、相談者が当日話し合いたい具体的な課題(アジェンダ)を決めます。

相談:アジェンダについて認知や行動に注目しながら相談者の経験を確認します。相談者はセラピストの質問に応えることを通して自身の経験をふり返りながら、詳しく考えていきます。さらに、セラピストから認知を見直す方法を学んだり、これから取り組む行動を決めたりします。

まとめ:最後の10分ほどでその日取り組んだ内容を確認し、次回までに相談者が取り組むホームワークを決めます。

ホームワークは面接と実生活を結ぶ重要な取り組みです。相談者はホームワークを通して面接で学んだ内容を実生活に取り入れて行きます。ホームワークに取り組んで経験したことや、できなかった場合にはその原因をセラピストと一緒に探っていくことも、治療効果を高める重要なポイントです。

このような面接を繰り返していくことで、相談者の「認知」やそれに伴う「感情」、「行動」の傾向を落ち着いて振り返ることができるようになっていきます。その結果、悩みや困りごとの解決に向かっていきます。

認知行動療法はセルフヘルプ(※2)の手段を身につける手法でもあります。これらの過程を繰り返し、最終的に自分で問題の分析と解決ができるようになれば、治療は終了です。

誰と治療をするの?

認知行動療法は現在、様々な場面で活用されています。そのため、色々な場面でさまざまな職種がセラピストとして担当します。それぞれの領域で担当する職種を紹介します。

  • 医療機関:医師や看護師、公認心理師や臨床心理士などの心理職、助産師、作業療法士、薬剤師など
  • 職場関連:産業医、産業カウンセラー、キャリア・コンサルタントなど
  • 学校:学校心理士、スクールカウンセラー、教員など
  • 保健福祉:心理職、精神保健福祉士、保健師など
  • 司法・犯罪関連:家庭裁判所調査官,法務技官,法務教官など

そして認知行動療法には、セラピストと相談者が1対1で取り組む「個人認知行動療法」と、セラピストと相談者を含めた3~10人程度の相談者で行う「集団認知行動療法」があります。どちらも考え方や面接の基本的な流れは同じですが、それぞれに特徴やメリットがあります。
ここからは、それぞれの認知行動療法について、詳しくみていきましょう。

じっくり取り組む、個人認知行動療法

個人療法ってどういうもの?

セラピストと相談者が1対1で行う個人認知行動療法(個人療法)では、1人のセラピストが治療を最初から最後まで担当します。診察室や面接室など決められた室内での対話が基本的なスタイルですが、必要に応じて部屋の外へ出かけることもあります。病院であれば入院中の患者さんのベッドサイドで、地域保健であれば相談者の自宅で行うこともあります。また、近年ではインターネット会議アプリを用いてオンラインで行うこともあります。

面接は1回につき30分~1時間程度、1~2週間に1回程度の間隔で行われ、合計で10~16回程度、実際には3ヵ月から半年程度になることが多いのが一般的です。

個人療法のメリット

個人療法は現場でもっとも多く用いられているスタイルです。認知行動療法の効果を明らかにした多くの試験が個人療法で行われていることもあり、確かな効果が期待できそうです。また、定められたスタイルがあるので計画的に進みやすく、治療経過が安定しやすいという特徴もあります。

相談者にとっては、同じセラピストと定期的に面接して、落ち着いた雰囲気の中でじっくりと自分の困りごとについて話し合えることが個人療法の大きな魅力です。セラピストに相談者のことを詳しく知ってもらいやすいですし、信頼関係ができれば、これまで他人には伝えにくかった胸の内や、込み入った内容の相談も伝えやすくなるでしょう。

セラピストは相談者との信頼関係構築に努め、話しやすい雰囲気を心がけ、話の内容をしっかりと受け止めたうえで、解決の方法を一緒に探ってくれます。

治療のなかで、自分の言動を振り返ったり、新しい「認知」や「行動」に取り組んだりするのは勇気がいることです。しかしセラピストは相談者の話をじっくりと聞き、時には問いかけを交えながら、今まで相談者自身が気づかなかったような「認知」や「行動」のクセを一緒に見出し問題解決をサポートしてくれます。

新たなチャレンジを励ましてくれたり、うまくいかなかった場合も別の方法を話し合ってくれたりすることも、相談者の大きな支えになるでしょう。

どんなスタンスで参加すればよい?

セラピストはメンタルヘルスや認知行動療法の専門家としてあなたに最善だと考えられるサポートを提供しようとします。しかし、相談者の中で起こった出来事やその苦しみを理解しているのはあなた自身です。

治療は、相談者が話した内容をもとに進みますので、相談者の協力なしでは成立しません。ぜひ面接では積極的に話をして、相談者の状態をセラピストによく理解してもらうようにしてください。

同時に、セラピストからのアドバイスはきちんと受け止め、わからないところや疑問点があった場合にはしっかりと確認を求めることで、より面接の内容が充実したものになると思います。

「治療をお任せする」のではなく「一緒に治療を組み立てる」気持ちで対話を積み重ねれば、困りごとの解決に少しずつ近づけるはずです。

仲間と一緒に頑張れる、集団認知行動療法

集団療法ってどういうもの?

集団認知行動療法(集団療法)は、一般的に3~10名程度の相談者と1~3人程度のセラピストが参加して行われます。「同じ悩みをもっている」「同じ病気の治療を受けている」など、共通の課題をもつ相談者やその家族が参加して行われます。

1回の面接での基本的な流れは個人療法と同じですが、相談者がそれぞれ自身の具体的な困りごとや意見などについて発表を行い、他の参加者の体験や考えを聞くことができるのが大きな特徴です。各相談者は自身の困りごとや意見についてセラピストだけでなく他の相談者と意見を交換したりしながら、改善をめざします。

同じ疾患や悩みを持っていると言っても、受け取り方、感じ方、取る行動などで様々な違いがあります。そのような違いを知ったり、なぜ違いが生まれてくるかを話し合うことを通して、多様な「認知」や「行動」の存在に気づくことができるようになります。

集団療法のメリット

自分と同じ悩みや苦労をもつ相談者が集まるので、共感しあえることが大きなよろこびや精神的な支えになります。また自分自身がそのグループの一員であると実感できるようになれば、治療意欲がいっそう高まるでしょう。

さらに、同じ悩みを持つ相談者が自分とは異なる考えであったり、課題やホームワークに取り組む様子を知ることが、自分にとって大きな刺激や新しい気づきになる可能性もあります。1対1ではない集団というスタイルが、「逆にリラックスできる」という人もいるでしょう。

また、少人数のセラピストが多数の相談者を担当しますので、費用負担が個人療法よりも少ない場合もあり、コストの面でも大きなメリットがあります。

どんなスタンスで参加すればよい?

自分自身が治療に積極的に参加し、セラピストと双方向で治療を組み立てていく点は個人療法と変わりません。さらに他の相談者とお互いを認め合い、否定するような言動は避け、発言や成果をたたえる拍手や言葉をかけあえれば、良い雰囲気の中でより意欲的に治療に取り組めるでしょう。

発言時間や個人情報の守秘など、面接に設けられたルールを守ることも大切です。

※1 ここで「環境」としているのは、自分以外のすべてのものを指します。たとえばあなたが人間関係において周囲から「ノリの良さを求められている」とします。その「ノリの良さを求める」人たちは「環境」として捉えますし、そういう人が目立つような社会・文化の影響も「環境」として取り扱います。

※2 セルフヘルプとは自分で自分を助けることを言います。認知行動療法は、ホームワークの時などセラピストがいない場面で取り組むことも多いですし、治療が終了した後も身につけたスキルを活用してもらうことで再発予防につなげることから、相談者がセルフヘルプ出来るようになることを重要視しています。専門的にはセルフコントロールと呼ぶこともあります。

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