「相談」や他のカウンセリングとの違い

~認知行動療法のメリットを知ろう~

身近な「相談する」という行為

生きていれば、大人も子どももさまざまな悩みに直面します。つらさを感じたり、体調にも影響するようなストレスを抱えたときには、「誰かに聞いてほしい」と思うこともあるでしょう。「問題解決の方法を教えてほしい」と切望するかもしれません。

悩みを相談する先として、まず家族や気心知れた友人・知人が思い浮かぶ人は多いはず。また、街なかやインターネット上には、困りごとをサポートするさまざまな相談窓口やカウンセリングサービスがあります。「認知行動療法」もまた、悩みや困りごとの改善をめざす心理療法です。「どこへ相談すれば良いのか…」と悩んでしまうかもしれません。

この記事では、認知行動療法と、「相談」や他の「カウンセリング」との違いをご紹介します。認知行動療法の確かなメリットを、詳しく見ていきましょう。

家族や友人への相談は手軽だけれど…

家族や友人は一見、悩みごとを気軽に相談しやすい存在です。相談者の性格や考え方、生活環境を知っていますので、事前に多くの情報を伝えなくても相談に乗ってくれますし、日常会話の延長で相談できます。時には、普段とは違う様子を心配して、家族や友人から相談者に声をかけてくれることもあるかもしれません。

ただ、身近な人への相談には、いくつかのデメリットもあります。

1)カウンセリングに必要な「傾聴」が不十分になる可能性がある

メンタルヘルス領域において、カウンセリングに対する明確な定義はありません。ただ、言語を用いたカウンセリングでは、相談者の話をじっくりと聞いて(傾聴)、しっかりと受け止め(受容)、サポート(共感)することで、相談者の思考の整理を助けたり、状況や病状の好転を支援したりするスタイルが一般的です。

これに対して家族や友人は相談者への思い入れが強く、「傾聴」に徹しきれないことがあります。聞き手がなぐさめや共感の言葉で会話をリードしたり、「○○したほうが良いよ」「○○すべきだと思う」などと提案することが少なくありません。このようなアプローチは、相談者の問題解決にマッチしていれば良いのですが、時に相談者の思いとは相容れない提案となり険悪なムードになってしまうことがあります。

身近な人への「相談」は、相談者の思いに応じた問題解決をめざすカウンセリングの基本的なスタイルに当てはまらなくなってしまうことも多いのです。

2)問題の原因が「相談者自身」に限定され、問題者のいる「環境」を考慮できない可能性がある

悩みごとは、相談者とその人が置かれた環境の間にある不一致から起こりがちです。このため認知行動療法では、相談者と相談者が置かれている環境の間に生じた「ズレ」に注目し、そこから問題の解決や軽減を図るという手法がとられます。

しかし家族や友人は、相談者の学校や職場の環境を正確には把握できません。仮に相談者と同じ環境にいても、心理面を含めた相談者を取り巻く「環境」はわからないこともあります。

相談者の環境に目を向けず相談者だけに原因を探し「あなたの甘えだと思う」「過去に○○していなかったからこうなったのでは」といったアドバイスをしても、解決の糸口が見えてこないばかりか、相談者を一方的に責める展開になってしまうことがあります。

3)エビデンスに基づいていない

当然のことですが、家族や友人は心理的なアプローチで問題解決をめざす専門的な方法論を学んでいるとは限りません。仮に家族や友人が心理的なアプローチを学んでいたとしても、身近な存在であるがゆえに相談者を客観的に見ることは専門家であっても難しいことなのです。「話を聞いてもらえてすっきりした」という変化は期待できるかもしれませんが、問題の現実的な解決にはならないことが少なくありません。

4)問題が拡大、深刻化するおそれも

不十分な「傾聴」や、問題の原因を相談者に限定したアドバイスは、かえって相談者を傷つけたり、状況を悪化させてしまう可能性があります。時には、相談された相手がその内容を周囲に話してしまうことも。相談者と相談を受けた人の関係が悪くなれば、それが新たな悩みになります。

「こんなことなら相談しなければ良かった」と思ったことのある人も、多いのではないでしょうか。

他のカウンセリングと認知行動療法はどこが違う?

1)質のバラつきも大きい、世間のカウンセリング

「ならば、カウンセラーによるカウンセリングを受ければ安心なのでは?」、そう思うかもしれません。ではカウンセラーとは、またカウンセリングとは、いったい何をさすのでしょうか。

わが国では、何らかの専門知識があり相談に乗る立場にある人が「カウンセラー」と呼ばれ、治療者(セラピスト)としてカウンセリングを行っています。メンタルヘルスに関しても、医療機関だけでなく学校・職場、公的な相談窓口や民間のカウンセリングオフィスなど、さまざまな場所でカウンセリングが実施されています。

ただ、メンタルヘルスに関するカウンセラーやカウンセリングは、資格をもっていない人でも行えてしまう現実があります。極端に言えば、医療や心理学に関する知識や専門的な資格をもっていない人でも、カウンセラーとして個人的な知識や経験に基づいたカウンセリングを行えてしまうのです。

もちろんこのようなカウンセリングでは、家族や友人への相談と同様の問題点があり、相談者のニーズに応えられないことが少なくありません。

2)歴史があり、効果が検証されてきた「認知行動療法」

これに対して、認知行動療法には、これまでの研究から体系化された理論や技法(面接の進め方や行動への介入方法)の蓄積があります。もちろん心理療法にはさまざまな技法があり、実際には認知行動療法以外にもフロイトの精神分析を応用した「精神分析療法」やロジャーズにより創始された「クライエント中心療法」などが用いられています。しかし、認知行動療法は特にエビデンスの数が多く、科学的な根拠に基づいて理論や技法が蓄積されている点が特徴的です。

また、認知行動療法を用いたカウンセリングでは、定まった技法を用いながら相談者の認知や行動の状態と向き合っていくので、カウンセラーの経験や技量が異なっても一定以上の効果が期待できます。

欧米の精神科医療では、以前から認知行動療法が治療法の1つに取り入れられ、その効果も検討されてきました。実際に、多くの研究においてうつ病や不安症で高い治療効果が得られることが示されています。例えばイギリスでは、国立医療技術評価機構(NICE)において、認知行動療法は軽度~中等度のうつ病などに対し中心的な役割を果たす治療法とされています。

また国内でも認知行動療法の効果が評価され、うつ病などの気分障害やパニック症など複数の精神疾患では、薬物治療と同じように医療保険を使って認知行動療法を受けることができます。

このように科学的なエビデンスがあり、一定の治療効果が期待できることや、医療機関でも有効とされている治療法の1つとして活用されている点が、認知行動療法と他のカウンセリングとの大きな違いです。

3)信頼性の高い「認知行動療法」を実施できるのは誰?

国内には、心理的なカウンセリングに関する資格が多数ありますが、資格取得までのカリキュラムは千差万別で、カウンセラーとしての知識や技量もさまざまです。それらの中でも、取得が難しく信頼性の高い資格が「臨床心理士」と「公認心理師」です。

「臨床心理士」は民間資格ですが35年以上の歴史があり、社会的に広く認知されています。資格を得るためには養成カリキュラムのある大学院で訓練を受け、資格認定試験に合格する必要があります。一方、「公認心理師」はわが国初の心理職の国家資格で、2015年に制定されました。大学と大学院で心理系の教育や実習経験を積み、国家試験に合格すると資格が得られます。

これらの資格を得るには、膨大な教育カリキュラムの履修と試験への合格が必須で、有資格者であれば、認知行動療法を含め心理療法全般に対する専門知識やスキルの高さが担保されているといえます。また資格の保持にあたっては、相談内容の守秘義務や多重関係(カウンセラーと相談者以外の関係になること)の禁止など、高度な倫理観も求められています。

正しい方法で悩みの解決をめざそう

体調が悪くなったときに、最初は市販薬や自己流のケアで様子を見ることもありますが、症状が悪化すれば医療機関を受診しようと考える人は多いはず。悩みごとやストレスも、それと同じではないでしょうか。「つらくてたまらない」「今の状況を良い方向へ変えたい」という思いは、適切な方法で解決をめざすことが大切です。

もしかしたら、「私の悩みはどこかへ行って治療するほどではない」と思うかもしれません。ですが、「臨床心理士」や「公認心理師」の資格をもつカウンセラーは多く、学校や職場など身近な場所でも相談を受け付けている場合が多いです。ぜひ、専門的な教育を受けたセラピストから、正しい認知行動療法のカウンセリングを受けてみてください。

column:認知行動療法にも資格がある

認知行動療法では、根拠となる詳しい理論があり、病状や悩みの内容に応じたさまざまな技法が開発されています。日本認知・行動療法学会では、これらを深く学んで実践できるセラピストであることを示す、2つの資格を設けています。

1.認知行動療法師®:メンタルヘルスを支援する専門の資格(医師、看護師、公認心理師、作業療法士、社会福祉士、精神保健福祉士、行動療法士、 臨床心理士、産業カウンセラーなど)を持つ人が対象で、認知行動療法を専門的に実施する実力があることを認定する資格です。「日本認知・行動療法学会のトレーニング・ガイドラインに基づく研修会などを履修している」「認知行動療法の実践事例を2例以上経験している」などの条件があります。

2.行動療法士®:行動療法に必要な知識や技能を認定する資格。日本認知・行動療法学会の会員で、学会が定める研修の受講や、研究発表1回以上または研究論文1編以上といった条件があります。研修時間や会員歴に応じて、「認定行動療法士」と「専門行動療法士」が設けられています。

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