認知行動療法(CBT)とは?
認知行動療法とは、ある人と、その人が置かれている環境の間に生じているズレを調整することで、不適応を改善したり、より良い状態へと導いたりする心理療法です。
心身の不調や心の病気など、今直面している問題を解決するために。
ストレスや悩みなどの課題を乗り越え、日々をより健やかに過ごすために。
自分自身をより深く理解し、成長のきっかけを得るために。
これらの助けとなりえる、認知行動療法の基本的な考え方をご紹介します。
認知行動療法は不適応をどのように理解するのか
認知行動療法の特徴
認知行動療法においては、精神疾患やストレスによる心身の不調といった問題が生じる原因が、人と環境の不一致にあると考えます。
たとえば「人に頼ってはいけない」という考えを持つ人を想定してみましょう。自分一人で全てをこなせる環境では人に頼る必要がなく、この考えはむしろ自身の支えとなるかもしれません。しかし周囲との協力が必須となる環境においては、この考えが協力の妨げとなり十分なパフォーマンスを発揮できず、結果としてストレスや自己否定につながる可能性が大きくなります。
認知行動療法ではこのような不適応を軽減するため、人の考え方や価値観といった「認知」の特徴や、「行動」の状態に着目し、今いる環境とどのようなズレが生じているのかを探っていきます。
そして、認知の特徴に介入する「認知的アプローチ」や、行動の状態に介入する「行動的アプローチ」を通してこのズレを調整することで、より良い状態へと導いていきます。
認知的アプローチと行動的アプローチ
認知的アプローチのポイント
認知的アプローチでは問題を抱えている人に対して、認知の偏りがあることに気づいてもらい、環境に見合った柔軟な思考を身につける支援を行うことで問題解決を目指します。
「人に頼るのは能力のない人がすることだ」「仕事を断ると、今後の仕事を自分に任せてもらえなくなる」といった考えが強すぎると周囲を頼ることができにくくなるように、偏った物事の捉え方や考え方が行動を阻害しているような場合に、その偏りを調整することで、望ましい行動を取りやすいよう働きかけるアプローチです。
行動的アプローチのポイント
行動的アプローチでは、不安や緊張などの感情が行動とその結果から引き起こされていると推定し、対処行動や対人スキルを身に付けたり、不安や緊張を感じる状況に段階的にチャレンジするといった行動への働きかけにより問題解決を目指します。
「過去に人に仕事を相談し、嫌な顔をされた」といった経験から人に頼れなくなっている状況を考えてみましょう。このような場合に、より伝わりやすい相談の仕方を練習したり、不安・緊張が小さい状況から段階的に周囲に相談して成功体験を増やしていくといったように、行動への介入によって適切行動を増やし、適応を高めるのが行動的アプローチです。
なぜ、認知行動療法が必要なの?
認知行動療法のメリット
-
再現性の高い心理療法である
- 個人の経験や考えを元にアドバイスを行う場合、人によってはその内容が自分に合わず、問題解決につながらない場合も考えられます。それに対して認知行動療法では体系化された理論に則って、その人それぞれの認知や行動の状態と向き合うため、どのような場合でも一定の効果が期待できる点が大きな特徴です。
実際に認知行動療法は、WHO(世界保健機関)が発表した心理支援の実施マニュアルでも高く評価されており、エビデンスに基づく心理療法として国際的にその普及と活用が推進されています。
-
幅広い分野や局面において活用できる
- 認知行動療法は幅広い分野において活用できる点も特徴です。
実際に次のような分野において認知行動療法が実施され、研究・臨床活動、教育・研修活動が行われています。- 保健医療分野:精神疾患の治療法として
- 産業・労働分野:メンタルヘルス対策や、ストレスマネジメントの手法として
- 犯罪・司法分野:犯罪者の再犯防止や、被害者へのメンタルケアの取り組みとして
- 福祉分野:障害や虐待、引きこもりなどの課題について当事者とその家族・関係者への支援として
- 教育分野:学校適応の促進に向けた支援や問題行動の予防的アプローチとして
-
自分自身でも実施できるセルフケアの側面を持つ
- 認知行動療法の考え方は、自分でできるストレスマネジメントに応用することができます。医師や公認心理師・臨床心理士といった専門職のもとで実施されるだけでなく、自分自身の認知と行動を理解し健やかな日々を過ごすために、より高いパフォーマンスを発揮するために活用できるのが認知行動療法なのです。
専門的でありながら身近な認知行動療法
認知行動療法という言葉を聞くと、なんだか難しそうだと感じるかもしれません。実際に認知行動療法には認知的アプローチ・行動的アプローチをはじめ専門的な知識・技術が求められるため、医療機関や専門職の支援を受けながら実施する流れが一般的です。
しかし、人の認知と行動、そして環境に目を向ける認知行動療法の視点は誰もが持つことができます。
「自分を変えたいけれどなかなか変えることができない…」
「周囲の環境を変えるのが難しい…」
このように感じた時には、自分と環境のどちらかだけではなく、その間にある「不一致」に目を向け、悩みやストレスとの向き合い方を考えてみてはいかがでしょうか。