発達障害支援/福祉分野における認知行動療法

発達障害を抱える人々の支援においても、認知行動療法は重要な役割を果たします。特別支援教育や福祉の分野では、子どもから大人まで幅広い年齢層に認知行動療法が活用されています。

認知行動療法を用いた支援で大切なのは、個々の環境を含めたアセスメントを行い、一人ひとりのニーズに合わせたものであることです。本記事では、発達障害を抱える子どもと大人それぞれに対する認知行動療法の事例を紹介します。その上で介入→支援方法について解説します。

発達障害を抱える人々へのより良いサポートにつながるよう、認知行動療法の個別ニーズに合わせた支援方法の理解を深めましょう。

認知行動療法による発達障害の支援例①

支援例の解説

この事例は、発達障害を抱える小学1年生のAくんに対する認知行動療法の例です。Aくんは授業中の離席が多く、その結果先生からの𠮟責も増え、さらに他の児童とのトラブルも頻回に起こっていました。そこでスクールカウンセラーが介入し、担任の先生たちと協働し、認知行動療法による支援を行いました。

介入方法をくわしくみてみましょう。

介入方法 具体的な内容
①行動の機能的アセスメント
(ある特定の行動がなぜ起こるのか、その目的や理由を分析する方法)
・スクールカウンセラーは、A君の離席行動の分析をし、離席の理由が「課題からの回避」と「先生への質問要求」だと考えた
・ADHDのため注意の持続や集中の困難さも原因として考えた
②教師へのコンサルテーションと環境調整 ・スクールカウンセラーは教師に対し、環境調整の重要性を説明した
・注意の散りやすさへの対応として口頭指示を黒板に書き、視覚的にわかりやすくした。また気になる生徒の席と離すという環境調整を行った
③ソーシャルスキルトレーニング(SST) (A君の社会スキルをあげるため以下のことを実施した)
・適切な助けの求め方:立ち歩く代わりに手をあげる
・友人との関わり方:ものを借りるときの言い方や、チームで負けたときの対応など
→これらをロールプレイで練習する

 

この介入のポイントは、

  • 環境要因への対応:教室の環境を整え、問題行動が起こりにくくした
  • 個人要因への対応:A君自身のソーシャルスキル向上に焦点を当て、トレーニングを行った
  • 適切な行動への対応:問題となる行動への叱責になりがちであったが、代わりになる適切な行動を積極的に褒めたり認めてもらえるようにコンサルテーションを行った

ということです。この事例では「スクールカウンセラー」を中心に「保護者」と「教師」がそれぞれの立場の情報を共有し連携をとりました。その結果「A君が教室で落ち着いて過ごせるようになる」という目標に向かい協働できたのです。

認知行動療法のアプローチにより、A君の問題行動は徐々に改善されました。教室での適応力が高まり、他の児童とのトラブルの減少にもつながりました。

認知行動療法が、発達障害を抱える子どもの支援に重要な役割を果たしたことがわかります。

認知行動療法による発達障害の支援例②

支援例の解説

この事例は、障害者雇用枠で採用された自閉スペクトラム症(ASD)のあるBさんに対する支援の具体例です。Bさんは職場でのコミュニケーションに難しさを感じ、ストレスを感じていました。そこで就労定着支援の事業所の心理士が「合理的配慮」と「認知行動療法のアプローチ」への介入をしました。

具体的な支援をみてみましょう。

介入方法 具体的な内容
①合理的配慮 ・聴覚過敏に対応するため、個室での作業やイヤーマフの装着の要請
・上司からの指示を具体的かつ、書面で行うよう依頼
②うつ症状に対する認知行動療法 ・認知再構成法:ネガティブな自動思考を修正
例)「同僚が私を嫌っている」→「同僚は私のコミュニケーションスタイルを理解していないだけかもしれない」
・ソーシャルスキルトレーニング(SST):適切な会話スキルの練習や非言語コミュニケーションの使用により、同僚とのコミュニケーションがスムーズになる
・マインドフルネス技法:ストレス軽減のための呼吸法や瞑想の練習を行い、ストレスに対応する能力をあげる
・セルフモニタリング:日々の気分や行動を記録し、成功体験を振り返る。自分への理解が深まり、ポジティブな変化を実感できるようになる

 

この介入のポイントは、

  • Bさんの職場や日常生活での具体的な場面を取り上げ、必要な合理的配慮を行う
  • 認知のゆがみを特定し、適切な思考パターンを練習する
  • その後も職場の上司と定期的な面談をして、Bさんの状況を確認したり、支援方法のアドバイスをしたりする

です。これらの介入により、Bさんの職場への適応が改善されました。コミュニケーションの困難さが軽減し、ストレスも減りました。

さらに、自分への理解が深まり、自分自身の特性に合った働き方ができるようになりました。

発達障害を抱える大人への認知行動療法では、個別のニーズに合わせた支援や職場環境を調整することが重要です。障害者雇用において、心理的サポートと、環境調整を組み合わせることで、就労の継続や質の向上につながる可能性があります。

認知行動療法は発達障害者の支援にも役立つ!

これらの事例を通して、発達障害を抱える方への支援における認知行動療法の重要性や効果を解説しました。子どもから大人まで、それぞれの年齢や環境に応じたアプローチが必要となります。

認知行動療法は、個々のニーズに合わせた対応や環境調整を行い、問題行動に代わる適応的な行動を習得したり、行動の背景にある考え方のパターンを理解し、柔軟な思考や行動を見つけたりといった、多様性のあるアプローチです。

子どもの事例では「学校との連携」、大人の事例では「職場との連携」が必要でした。発達障害のある方のアプローチでは、本人の努力だけでなく、周囲の理解や支援を得ていくこと、持続的な支援環境をつくっていくことも重要になります。

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