教育分野における認知行動療法

認知行動療法は、様々な分野で活用されています。教育分野では、不登校などに代表される学校不適応を示す児童生徒や保護者、教師などへの支援や対応に効果的です。

認知行動療法の効果を最大限に発揮するには、カウンセラーや心理師だけではなく、教師をはじめとした教育関係者や家族などの理解と協力が必要不可欠です。教育分野における認知行動療法のポイントや、家族、教育関係者の役割、具体的なアプローチ方法などを解説します。

学校不適応の生徒に対する認知行動療法

認知行動療法のポイント

教育分野における認知行動療法は、児童生徒の具体的な行動が、学校や学級集団との相互作用によって影響を受けているという観点から、その行動の機能を理解しながら展開することが重要です。学校不適応状態の児童生徒は、何らかのストレスや葛藤が生じた結果として「学校へ行きたくない」という行動が現れることもありますし、家にいることが楽しいために「学校へ行きたくない」という行動が現れることもあります。

学校不適応を示す児童生徒との関わりは、不適応状態を具体的な行動を基準としながら適切に見極めて対応することが重要です。適切な対応をするためには、具体的行動に加えて、身体症状や表情、言語表現、学習状況、友人関係、家庭環境など、多方面から児童生徒を観察し、アセスメントします。

学校不適応を示す児童生徒の理解においては、機能的アセスメントの観点が重要です。機能的アセスメントとは、ある行動に伴って、どのようないいことを得ていたり、嫌なことを避けていたりするのかを理解し、その行動が繰り返し維持している理由を明らかにしていくプロセスを指します。

登校渋りや保健室登校などの行動が、どのようなきっかけに伴って生じ、どのような学習の結果として維持し、一定期間にわたってなぜ繰り返し続いているのかを理解していくことで、個々の児童生徒に適した支援方法を検討していきます。

また、認知行動療法では機能的アセスメントに加え、「ケースフォーミュレーション」を行います。ケースフォーミュレーションとは、問題行動が起こることに影響を及ぼしている、個人の認知(考え方)や行動、感情、身体反応、環境要因などを整理し、それぞれの相互作用を考慮したうえで、支援方法を立案し、実践し、有効性を評価するという一連の手続きを繰り返しながら検証するプロセスを指します。

ケースフォーミュレーションを行うには、児童生徒の話を聞くだけではなく、児童生徒の行動観察、対象となる児童生徒以外の児童生徒の観察、保護者や教師からの情報収集など、多面的なアセスメントが不可欠です。特に、自分の気持ちをうまく表現できない児童生徒には、表情や行動を観察したり、文字やイラストで気持ちを書き出したりするのもおすすめです。

機能的アセスメントやケースフォーミュレーションを通して、発生している問題や発生した時期、続いている原因などに関する仮説を立て、介入方針を検討します。

認知行動療法における家族や教育関係者の役割

具体的アプローチのポイント

ケースフォーミュレーションに基づく個別の支援計画を立案したら、具体的な支援を展開していきます。そのなかの1つの方法に「認知再構成法」があります。認知再構成法とは、経験した出来事に対して考えたり思ったりしたことが、感情に影響を及ぼしていることに着目し、自分の気持ちが楽になったり、ストレスが下がったりするような考え方に気づくことを支援する方法です。

学校不適応を示す児童生徒は「自分はクラスのみんなから嫌われている」「友だちは自分と話してもつまらないに違いない」など、必ずしも事実とは限らない、思い込みとも言える認知(考え方)によって強いストレスを感じていることがあります。児童生徒が抱えるネガティブな感情に対して、事実と認知を切り分けながら整理を行い、自分を励ましたり気持ちが楽になったりするような考え方を探っていきます。

認知再構成法に基づいて、物事を前向きにとらえ、具体的な解決策を考えることができたら、実際に行動に移すことができるよう、ソーシャルスキルトレーニング(SST)に代表されるような、行動的アプローチを選択することがあります。ソーシャルスキルトレーニングとは、具体的な状況や場面、あるいは相手にあわせて、自分にとっていい結果につながる行動を検討し、実際に実行できるよう支援を行う一連のアプローチです。クラスメイトとうまく話せないと感じている児童生徒を対象とした場合に、クラスメイトとのコミュニケーションスキルを向上させるため、ロールプレイを用いた練習を実施することもあります。例えば、最初は先生や保護者と会話の練習を行い、その後比較的話しやすい、小学校からの友達などと話してみることで「うまく話せた」という経験を蓄積したり、よりよいコミュニケーションが取れる新たな行動を獲得したりしていきます。

このように、児童生徒が自分の認知や行動、感情の関係性に気づき、具体的に実行してみることで、よりよい結果が得られることを学習し、結果として自己肯定感や自己有用感の向上につなげていきます。

家族や教育関係者によるサポートのポイント

児童生徒の学校不適応に対する教育現場の認知行動療法には、家族や教育関係者のサポートも重要です。

家庭と学校では、支援をしやすいポイントが異なります。不登校や登校渋りを例にとれば、朝起きて、着替えて食事をし、家を出て学校に向かうところまでは、家庭が中心となってサポートすることが効果的であり、効率的であるといえます。言い換えれば、学校からは手が出しにくい部分になるでしょう。一方で、学校に登校したあとは、教室の内外でさまざまな成功体験を積んだり、ポジティブな感情が生まれてきたりするような支援を講じるのは、学校側が取り組みやすいことであり、家庭からはアプローチしにくい部分になります。このように、家庭と学校では、支援の提供のしやすい場面や状況が異なることを前提としながら、うまく情報共有と目標共有を行いながら、役割分担をすることが望ましいと考えられます。このような「共有」と「協働」を円滑にするために、目に見える、具体的な「行動」を軸とした情報収集が鍵となります。

認知行動療法ですべての子どもがよりよい生活へ!

認知行動療法は、児童生徒の学校不適応だけではなく、すでにできていることをより上手にできるように支援を行ったり、自分の生活の良いところに気づいたりすることにも効果的です。学校不適応の問題が起こってからの対応はもちろん、問題が起こる前の、予防的な支援に対しても認知行動療法は有効とされています。さらには、コロナ禍のような非常時や、災害、事件、事故などに直面した際にも、あらかじめ認知行動療法の支援方法を習得していた場合に、回復が早いということも報告されています。認知や行動に着目しながら身につけたストレスへの対処法は、成人になってからも活用可能な場合が少なくありません。すべての児童生徒が認知行動療法に触れ、個々の課題に対応可能なエッセンスを身につけることができることが、将来的な精神的な健康にも役に立つと期待できるでしょう。

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