保健医療分野における認知行動療法

認知行動療法は、様々な分野で活用されています。

保健医療の分野では、主に心療内科や精神科における精神疾患治療の一手段として活用されています。

「精神疾患治療」と聞くと、服薬治療が中心になると考える方もいるかもしれません。

確かに服薬治療は症状を安定させるために重要ですが、長きにわたって日常生活を維持できるようになるためには、認知行動療法を使ってより疾患の要因にアプローチしていくことが不可欠です。

精神疾患でお悩みの方の助けとなる、認知行動療法について紹介します。

認知行動療法による不安症の治療例

治療例の解説

パニック症(パニック障害)は、パニック発作が繰り返し生じることで、将来の発作に対して過度の不安を覚えるようになったり、発作を引き起こす可能性のある状況を回避するようになったりする症状です。いつ発作が起こるかわからないため、発作の再発を恐れる「予期不安」が強くなります。その結果、満員電車などその場から逃げることが困難な状況を恐れる「広場恐怖症」を併発することが多いです。

満員電車で息苦しさや恐怖感を体験すると、「満員電車に乗ると不安定になる」恐怖が生まれます。これを心理学では「恐怖の条件づけ」と呼びます。この不安により、恐怖反応を引き起こす刺激(ここでは満員電車に乗ること)を事前に避けようとし、満員電車を避けるようになります。この「回避行動」を取ると、人は恐怖感を感じなくなりますが、かえって満員電車に乗れなくなってしまいます。

恐怖感を引き起こす原因から離れる生活を送るようになり、実際に満員電車に乗っても不安にならない体験がなくなるため、恐怖・不安が維持されます。結果として「電車に乗る」こと自体ができなくなってしまい、日常生活に支障をきたしてしまいます。

この治療に関しては、「エクスポージャー法」と呼ばれる治療法が有効です。これは、不安の原因になる刺激や状況に段階的に触れることで、不安を消していく方法です。マンガのように、①まずはホームに立ってみる、②人が少ない電車に1駅分だけ乗ってみる、③乗る区間を長くしていく…というように、段階的に不安に慣れていきます。不安に慣れて、恐れているようなことが起こらないという経験が増えると、回避する必要性が薄まり、「不安やそれを引き起こす環境と上手に付き合う」ことができるようになるのです。

ちなみに、パニック発作で起こる身体的な内部感覚(動悸、めまい、吐き気、呼吸困難など)を意図的に起こし、その発作に慣れていくという方法もあります。この療法のことを「内部感覚エクスポージャー」と呼びます。

認知行動療法によるうつ病の治療例

治療例の解説

うつ病の治療においては、仕事を休職するなど、まずは休養をしっかりとることが重要です。その上で服薬によって症状を安定させます。休養と服薬で症状が安定してきたら、認知行動療法の出番です。

治療の流れですが、まずはカウンセラーと信頼関係を作っていきます。「これまでの経過」「うつ病のきっかけとなった出来事」「現在の症状」などを、カウンセラーと話します。カウンセラーはその内容をもとに、どのようにしてうつ病に至ったのかについてを理解し、その内容を相談に来られた方と共有していきます。そして、今後の目標(復職が目標であれば、「いつまでに復職したいか」など)をカウンセラーと一緒に考えていきます。

次に、否定的な考え方について見ていきます。例えば上のマンガの主人公の例では、「努力しても何もうまくいかない」「自分は価値のない人間だ」といった否定的な考え方(これを「認知のゆがみ」と言います)があることがわかりました。このような否定的な捉え方を見直すことにより、起こった事実に対して新たな考え方をするよう行動を修正していくことが、うつ病からの回復においては重要です。

保健医療分野における認知行動療法の発展

認知行動療法は多くの精神疾患の助けになる

認知行動療法は、今回取り上げた「不安症」「うつ病」以外の精神疾患にも、効果があるとされています。特にうつ病は、日本人の約15人に1人が一生のうちにかかるとされており、珍しくない精神疾患です。

少しでも調子が悪いと感じたら、まずは心療内科や精神科を受診することをお勧めします。そして、医師や心理職などに相談の上、認知行動療法を実施してみてください。

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