日本認知・行動療法学会第50回記念大会「認知行動療法の次なる一歩:これまでの実績とこれからの挑戦」レポート

日本認知・行動療法学会は一つの節目となる50周年を迎え、2024年9月22日から24日にかけて「認知行動療法の次なる一歩:これまでの実績とこれからの挑戦」と銘打った大会を開催しました。この記事では、23日と24日にパシフィコ横浜 会議センターで開かれた学会の模様や、認知行動療法の過去と現在、そして未来に対して見出されたテーマに対する、発表や議論の模様をお届けします。

さまざまな視点で考える、認知行動療法の過去、現在、近未来
~大会企画シンポジウムレポート~

9月23日(月)10:00~12:00に第1会場にて開かれたのが大会企画シンポジウム 1「認知行動療法の次なる一歩:これまでの実績とこれからの挑戦」です。古川 洋和先生、富田 望先生の2名が司会を務め、坂野 雄二先生、杉山 雅彦先生、熊野 宏昭先生、仲嶺 実甫子先生、谷口 敏淳先生の5名により、認知行動療法(CBT)の歴史と発展、現状と課題、そして今後の展望についての講演が行われ、質疑応答の時間も設けられました。

講演内容は、日本認知・行動療法学会の出発点の振り返りや、認知行動療法の哲学、人材育成、海外の研究成果を日本文化へ適用する際の留意点、認知行動療法をユーザーに届けるために必要な考えなど、50周年を記念するにふさわしい充実のラインナップでした。認知行動療法に関する発展の経緯や学問領域、国内外を横断した内容となっており、多岐にわたる視点を包括しています。

同日、第2会場では13:30~15:30に大会企画シンポジウム 2「認知行動療法の近未来」が開催されました。これからの認知行動療法を考える上で我々は新しい知見をどのように取り入れ、どのような近未来を描いていくのかを考えるこのシンポジウム。鈴木 伸一先生による企画主旨の解説からはじまり、3名の先生方による講演が行われました。

1人目の井上 雅彦先生は、応用行動分析をベースに、個別化した介入の重要性を説きました。その考えは、診断名に基づく一様な診療でなく、当事者の特性や社会的妥当性に基づいたアプローチが重要であるという視点に裏打ちされています。2人目の原井 宏明先生は、認知行動療法研究の近未来を考えるにあたって過去の論文に目を通し、新しい治療法の検証における因果関係の重要性を説きました。3人目の谷 晋二先生は、テーラーメイド化された介入における文脈的行動科学(CBS)関係フレーム理論(RFT)について言及し、研究の発展や臨床への応用に期待の言葉を寄せました。

3名による発表後には、田中 恒彦先生が指定討論者として各発表者に質問を投げかけ、総合討論を通してさらに議論が深められました。

9月24日(火)9:30~11:30、第1会場で開かれたのが大会企画シンポジウム 3「認知行動療法の社会実装向けて–人生100年時代のWell-beingを支える認知行動療法の成果と次なる挑戦–」です。戸ヶ崎 泰子先生の企画のもと、人生100年時代に認知行動療法が価値を発揮するためにできることについて、最前線で取り組む4名の先生方による講演が行われました。

1人目の土井 理美先生が提供したテーマは、周産期メンタルヘルスの重要性と、認知行動療法のエッセンスを取り入れた支援プログラムの開発です。2人目の岡島 義先生は、産業労働領域にフォーカスし、睡眠問題が労働生産性に与える影響と、不眠症に対する認知行動療法の有効性について発表しました。3人目の境 泉洋先生は引きこもりから社会参加への継ぎ目のない支援をテーマに、家族のサポートや本人の動機付け、自治体単位の支援体制の構築などにおける認知行動療法の役割について取り上げました。4人目の日下 菜穂子先生のテーマは高齢者福祉領域での認知行動療法です。高齢者が喜びを感じながら年齢を重ねられる社会の実現に向けたプログラムについて、実際の介入の様子を映した映像も交えながら解説されました。

講演後には、栗田 駿一郎先生、田中 増郎先生が登壇し、提案された4つの論題に対する討論と質疑応答の時間が設けられました。これからの社会における非常に重要なテーマに対し、時間いっぱい、白熱した議論が行われました。

公開シンポジウム/日本学術会議共催シンポジウム
「心理学国家資格『公認心理師』の社会的役割と活動の実際」

9月23日(月)13:00~15:30に、第一会場で開かれたのが公開シンポジウム/日本学術会議共催シンポジウム「心理学国家資格『公認心理師』の社会的役割と活動の実際」です。佐々木 淳先生が司会を務めるこのシンポジウムは、嶋田 洋徳先生による開会挨拶・趣旨説明にはじまりました。

前野 良隆先生による基調講話で取り上げられたテーマは「公認心理師制度の現状と課題」です。つづく丹野 義彦先生による「公認心理師への期待と今後の課題–職能団体として–」では、公認心理師の活動の場の拡大や養成・資質の向上に向けて何ができるのかというテーマが取り上げられています。さらに信田 さよ子先生の講和では、日本公認心理師協会会長としての立場から現状報告と未来に向けての展望が語られました。

ここから話題は、主要な5分野における「公認心理師」の役割と活動の実際へと展開されます。1人目の熊野 宏昭先生が取り上げたのが「保健医療分野」です。分野ごとの勤務先機関データを紹介したのち、公認心理師と保健医療の関係性について解説しました。2人目の金澤 潤一郎先生は、「福祉分野」にフォーカス。各種データをもとに現状をまとめ、研究の課題と今後の展望について語りました。

3人目の戸ヶ崎 泰子先生は「教育分野」を担当し、同領域での公認心理師の現状を踏まえて、課題と活躍の展望について言及しました。4人目の紀 惠理子先生は「司法・犯罪分野」を対象に公認心理師活動状況といったデータを紹介し、その職務の特徴と期待される効果、課題などを発表しました。5人目の田上 明日香先生は「産業・労働分野」における支援の実態を、エビデンスを持って提示し、有効なガイドラインや今後取り組むべき課題について取り上げました。

2017年の制度開始からさまざまな分野で活動を続けている公認心理師。その活動や課題、求められる役割を精緻に把握するために必要なエビデンスと多様な観点が示された公開シンポジウムに、会場からは万雷の拍手が送られました

ポスター展示参加者インタビュー/懇親会レポート

9月23日(月)から24日(火)にパシフィコ横浜 会議センター3階315室にて、多様な実践報告や研究成果について広く演題が寄せられたポスター展示が行われました。

今回は学生さんの多くもポスター発表を行っていました。以下、ポスター発表に参加された学生さんたちへのインタビュー(一部抜粋)です。

「とても緊張しましたが、いろんな方からその視点はなかったという質問が多数寄せられ、非常に勉強になりました」(永井敬梧さん/新潟大学大学院)

「実際に知っている知識でも、隣の方とワークをやってみると『こうした方が良いのだな』という新しい気付きにつながり、すごく参考になりました」(高橋宏彰さん/立命館大学大学院)

「発表前は厳しい意見を寄せられるのではないかと緊張していましたが、みなさんから暖かいアドバイスをいただき、今後に研究に関する視野がかなり広がりました」(五十嵐里奈さん/北里大学大学院)

「実際に現場で働く先生方が議論してくださり、想定していなかった角度から意見をいただくことで大変学びが深まりました」(金子悠里乃さん/立命館大学大学院)

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大会後は懇親会が開かれ、大会プログラムなどを話題にざっくばらんな議論をしながら、交流が大いに深められる場となりました

本レポートでは、日本認知・行動療法学会第50回記念大会の一端をご紹介いたしました。認知行動療法の発展と普及に向けて、インプット・アウトプットの両面で意義のある大会になったのではないかと思われます。これを機に、当学会が開催するイベント等に興味を持って頂ければ幸いです。

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